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神戸地方裁判所 平成8年(行ウ)33号 判決 1997年7月14日

兵庫県高砂市伊保三丁目一五の三八

原告

木谷勝郎

神戸市長田区御船通一の四

被告

長田税務署長 中野康之

右被告指定代理人

森木田邦裕

石井洋一

冨田誠

森将浩

大久保昭男

主文

一  本件訴えを却下する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第一請求

被告が原告所有の神戸市長田区大橋町四丁目二番所在ダイアパレス西神戸七〇一号及び同一一〇四号の震災補修費に対してなした平成七年度消費税課税処分のうち、金一万〇三二四円につきこれを取り消す。

第二事案の概要

原告は、神戸市長田区大橋町四丁目二番所在のダイアパレス西神戸七〇一号及び同一一〇四号を平成三年三月末に購入し、右各物件を賃貸していたが、平成七年一月一七日に発生したいわゆる阪神・淡路大地震により右各物件を補修せざるを得なくなったため、同年六月補修工事を施し(以下「本件補修工事」という。)、その際工事業者に対し、消費税として一万〇三二四円を支払ったが、右消費税の支払は被告の消費税課税処分によるものであり、右処分は違憲・違法なものであると主張してその取消しを求めている。

第三争点

一  原告が主張する「消費税課税処分」は存在するか。

二  右処分が存在する場合、当該処分は違憲・違法なものか。

第四原告の主張

一  争点一について

消費税法上、国は事業者の意思に関係なく取引(売上)に対して自動的に課税し、事業者は取引(売上)の際に必然的に消費者から消費税を預かっているはずという前提で会計処理がなされるという仕組みになっている。したがって、事業者を介して原告と被告との間に権利義務を形成することが法律上認められていることになるから、本件課税は「行政庁の処分その他公権力の行使に当たる行為」に該当する。

二  争点二について

1  震災の被災建物の再建や補修は実質的には被害財産の自己填補としての単なる原状回復の行為に過ぎず価値の増加を伴わないこと、本件補修工事の動機は自己責任のない地震による災害であることから、本件補修工事は「消費」ではない。

2  消費税法上、憲法が保障する生存権、基本的人権、公共の福祉に関わるものが非課税となっているが、震災被災者の被災建物の補修や再建の行為は、生存に関わる生活基盤の回復への努力であるから、非課税とされるべきである。

3  自己責任のない被災者の原状回復行為に課税するのは、被災者の生活基盤回復への妨害であるから憲法一三条に反し、財産権の侵害であるから憲法二九条に反し、交通事故において加害者が被害者に対して支払う損害賠償金には消費税が課税されないのに、いわば被害者が被害者に損害賠償をしているといえる補修費の支払いに対し消費税を課税するのは不合理な差別であるから、憲法一四条に違反し、生存への努力を消費とみなしているのは、生存権を侵害するものであるから、憲法二五条に違反する。

4  平成三年の消費税法改正で住宅の貸付けが非課税とされた理由からして、震災での再建や補修に対する高額な消費税は免除されるべきである。

5  消費税法は、消費行為に担税力を見出して課税しているが、震災被災者は担税力を欠いており、本件補修工事への課税は租税の公平や中立性に反する。

6  自己責任のない行為が免責されることは法の普遍的原則であり、自己責任のない被災者に対しては消費税は免責されるべきである。

7  以上のとおり、本件補修工事に対する消費税課税処分は違憲・違法であるから取り消されるべきである。

第五争点に対する判断

一  消費税法は、納付すべき消費税額の確定の手続について、申告納税方式によるものとしている(消費税法第四章、国税通則法一六条)。申告納税方式においては、納付すべき税額は、納税者の申告があれば、特に税務署長において更正をする場合を除き、申告によって確定し、納税者は、申告に係る税額を納付すべき義務を負担する。したがって、税務署長の更正処分(国税通則法二四条)又は決定処分(同法二五条)等がなされない限り、申告納税方式においては税務署長の課税処分は存在しない。なお、消費税法は、納税義務者たる事業者がその提供する物品やサービスの価格に消費税額を転嫁し、転嫁された価格で消費する消費者が最終的に消費税相当額を負担することを予定しているけれども、それは消費税が間接税制度であるためであり、税務署長の何らかの行為により、消費者が消費税の納税義務を負わされるわけではない。そうすると、本件「消費税課税処分」取消しの訴えは、法律上存在しない処分の取消しを求めるものと考えざるを得ず、不適法である。

二  したがって、その余の点について判断するまでもなく、本件訴えは不適法であるから、これを却下することとし、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法七条、民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 將積良子 裁判官 徳田園恵 裁判官 西野吾一)

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